大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)354号 判決

本件建物は、大正十二年ごろ平家建倉庫として建築され、その後古谷吉造が二階居宅部分を増築したものであるが、一階と二階との通し柱も用いられてなく、すでに木造建物としての耐久年限を超えていたにかかわらず、前所有者当時から長期間修補されなかつたため、本件賃貸借契約解約の申入がなされた昭和三十三年八月九日当時においては、老朽化し、その土台、柱の根元等に完全に腐触し、それがために正面に向つて左側及び道路面にそれぞれ約十五糎程度傾斜して(右傾斜の事実は当事者間に争がない)、その二階軒端は隣家の軒に殆んど接触する程度となり、外部モルタル張等の脱落、腐れが随所に生じて雨水等による腐触を促進し、その内部床面も全般的に浮き上り階段の踏板は傾斜動揺しており、直ちに大修繕を加えなければ、早晩崩壊することは免れず、殊に地震風圧等少し強度の外力が加わるときは容易に倒壊する危険に瀕していた。しかも、本件建物の附近一帯は商店街で、本件建物はその中央部に約四間巾の道路に面し、商店と並んで建てられている(右本件建物の位置、環境は当事者間に争がない)ため、附近の住民から本件建物は腐朽傾斜が甚しく何日何時倒壊するかも知れず、附近住民及び通行人にとつて非常に危険であり、がたがた商店街の繁栄に支障をきたしているとの理由で取毀つことをしばしば要望されていたばかりでなく、本件解約申入当時大修繕を施しても、精々十余年程度しか建物としての効用を維持するに過ぎず、それには相当額の費用を必要とし、新築の場合に比して経済的ではない。本件建物は借地権附で、被控訴人の父である杉浦安雄が被控訴人名義で買受けたものであるが、その腐朽の程度が著しいので、被控訴人はこれを取毀して店舖兼住宅を新築し、目下アパート住いの姉夫婦を後見として適当な商業を営む計画を有し、前記のように附近の住民から取毀を要望されているため速かにこれを取毀して商店街にふさわしい建物を新築する必要に迫られている。一方控訴人は本件建物の道路から向つて左側三軒目に木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舖兼居宅一棟建坪七坪八合六勺、二階六坪九合五勺を所有し、同所で、酒類の販売業を営んでいる(右事実は当事者間に争がない)が、その店舖部分は約五坪位で手狭のため、本件建物を商品等の倉庫として使用している。

上記甲第二号証、乙第一号証の記載及び原審での証人清家忠美、同小林実の各証言並びに控訴人本人の供述中上記認定に反する部分は、前掲各証拠に照らして信用することができず、他に以上の認定を左右し得る証拠はない。

上記認定の事実によれば、本件建物はすでに老朽化の程度が甚しく早晩は改築しなければならないものであり、しかもこれを存置することは附近居住者のみならず一般通行人にも損害を及ぼす虞があり、且つ附近商店街の発展のためにも支障をきたしているのであるから、賃借人としても右のような危険の除去及び居住街の発展に協力しなければならないことは当然であり、これに当事者双方の必要性を比較考量すれば、被控訴人のなした本件賃貸借契約の解約の申入は、借家法第一条の二にいう正当の事由ある場合に該当するものと認めるのが相当である。

(村松 江尻 杉山)

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